ソーシャルスキルトレーニング(SST)とは?目的や効果、内容を解説

デコボコベース株式会社 最高品質責任者(CQO)
東京大学大学院 教育学研究科
博士課程 単位取得満期退学
通信制高校教諭、障害児の学習支援教室での教材作成・個別指導 講師を経て、現在は療育プログラムの開発、保護者や支援者向けの研修を実施
▼この記事の3つのポイント
- ソーシャルスキルトレーニングとは、コミュニケーションや社会生活に必要なスキルを身につけるための実践的なトレーニング
- ロールプレイやフィードバックを通じて、困りごとが生じやすい状況での適切な行動を繰り返し練習し、日常生活での対応力を高めることが目的
- よりよい人間関係を築くためのコミュニケーションスキルが向上し、社会参加のハードルを下げる効果がある
ソーシャルスキルトレーニング(SST)って聞くけど、よくわからない…
「友達が作れない」「人と話していても会話が途切れてしまう」「相手の考えていることがわからない」そんなコミュニケーションに関する悩み事はありませんか?
円滑なコミュニケーションを通して、社会生活に適応する能力がソーシャルスキルです。ソーシャルスキルを身につけることで、対人関係がスムーズになったり、社会参加がしやすくなったりします。
本記事では、ソーシャルスキルトレーニングがどんなものか、目的や効果、内容を詳しく解説します。
ソーシャルスキルトレーニング(SST)とは
ソーシャルスキルトレーニング(Social Skills Training:SST)とは、人とのコミュニケーションに困難がある方に対し、対人スキルを身につけることを目標にしたプログラムのことです。ソーシャルスキルトレーニングの基本コンセプトや背景、適応について詳しく解説していきます。
ソーシャルスキルトレーニング(SST)の概要
ソーシャルスキルトレーニング(SST)は、対人関係や社会生活に必要なスキルを学習・習得するための実践的なトレーニング方法です。あいさつや順番を守るといった基本的な行動から、感情のコントロールや問題解決まで、幅広い対応スキルを対象としています。
ロールプレイやフィードバックを繰り返し、困り事の生じやすい状況に対する適切な行動を練習し、日常生活で対応する力を高めることを目的としています。発達・精神障害のある方だけでなく、社会生活に不安を感じる人にも有効なトレーニングです。
参考:全国地域生活支援機構「SST(ソーシャル・スキル・トレーニング)とは?~ソーシャル・スキルを効果的に身につけるために」
ソーシャルスキルトレーニング(SST)の歴史や背景
ソーシャルスキルトレーニングは、対人不安の高い神経症の方に対する行動療法として開発されたものです。しかし、学童期のソーシャルスキルの低下が問題視され始めた1990年代から、日本でも広く注目されるようになりました。
現在では、行動療法や認知行動療法(CBT)といった心理アプローチを取り入れながら、発達障害や精神的困難を抱える方をサポートする方法として広がりを見せています。
教育現場や特別支援教育、就労支援、リハビリテーションの分野など、幅広い領域で活用されており、社会生活を自立させる方法として多くの施設で取り入れられています。
どんな人に適した方法なの?
ソーシャルスキルトレーニングは、以下のような人に特に効果的です。
- 自閉スペクトラム症(ASD)
- 注意欠如・多動症(ADHD)
- 知的障害や精神疾患のある方
- HSP(繊細で刺激に敏感な人)傾向のある方
- 対人関係や感情コントロールが苦手な方
年齢に関係なく、人間関係やコミュニケーションで困り事を抱える方を対象としたトレーニングです。
参考:独立行政法人教職員支援機構「特別支援教育総論 学習のユニバーサルデザイン・段階的対応・合理的配慮」
ソーシャルスキルトレーニング(SST)の目的・効果とは?
ソーシャルスキルトレーニングの目的は、より良い人間関係を築くためのコミュニケーションスキルを身につけることです。ソーシャルスキルトレーニングによって得られる効果を具体的に解説します。
1. コミュニケーション力の向上
ソーシャルスキルトレーニングの大きな目的の一つは、コミュニケーション能力を高めることです。日常生活や学校、将来の職場など、さまざまな場面で必要となるコミュニケーションスキルを身につけることで、人間関係のトラブルを防ぎ、社会に馴染みやすくなるはずです。
コミュニケーション力を向上させるスキルには、以下のようなものがあります。
- あいさつや自己紹介、会話の始め方
- アイコンタクトや表情、姿勢など非言語的な表現
- 相手の話を聞く力や気持ちを読み取る力
- 社会的なルールやマナーの理解
例えば「遊びの仲間に入れてほしいとき、どう伝えるか」「先生に注意されたとき、どう返事をするか」といった具体的なシーンを通して、状況にふさわしい対人行動を練習します。
ロールプレイやグループ活動を通じて体感的に学ぶことで、実際の場面でも自然にふるまえるようになるでしょう。
2. ストレス対処スキルの習得
周囲の変化に敏感に反応しやすい特性のある方は、日常のちょっとした出来事に強い不安やストレスを感じやすいものです。そのため、不安や怒りなどの感情が、行動面の困難につながることも少なくありません。
グループワークやロールプレイを通じて「気になったとき」「イライラしたとき」にどのように自分の気持ちを整理し、落ち着いて対処できるかを学習します。
たとえば、怒りっぽい方に対しては「感情のおさめ方」「適切な怒り方」の2つを段階的に教えます。「怒っているときは少しその場から離れる」「熱中できる別の行動をとる」など、自分に合った方法を見つけることで、感情をコントロールしやすくなるでしょう。
困り事が起こったときの対処方法を身につけると、周囲とのトラブルや摩擦が減り、居心地の良い環境を整えられます。
3. 自信・自己肯定感の向上
小さな成功体験を積み重ねて自信や自己肯定感を育むことは、ソーシャルスキルトレーニングの大きな成果です。コミュニケーションに苦手意識がある方は、幼少期から失敗したり周囲に注意されたりすることが多く、自分に対して否定的なイメージを持ってしまっていることがあります。
ソーシャルスキルトレーニングでは、スモールステップで達成可能な目標を設定し、達成するたびに「できた!」という実感を得られるよう工夫されています。
こうした経験を繰り返すことで「自分にもできる」「自分には力がある」という前向きな自己イメージが形成され、自信や自己肯定感の向上につながるでしょう。
4. 社会参加のハードルを下げる
ソーシャルスキルトレーニングで身につけたスキルは、学校生活や将来の就労にもつながる大切な「社会参加の基礎」です。
例えば、学校では「提出物の期限を守る」ことが求められます。これは単なるルールではなく、相手と信頼関係を築く上での基本的な要素です。毎回期限を守ることができれば「信頼できる」と周囲からの評価も上がり、自分に自信を持てるようになるでしょう。
また、社会の中では理不尽な要求をされたり、自分の思いどおりにならない場面に出くわしたりすることもあります。そうしたときの対処方法を身につけておくことで、問題を乗り越える力(問題解決能力)も自然と養われていきます。
コミュニケーションの基礎を身につけることで、社会との接点をポジティブに捉え、積極的に関わろうとする姿勢が生まれるでしょう。
子ども・幼児の場合は?
ソーシャルスキルトレーニングは、お子さんの発達段階や特性を踏まえた対応が欠かせません。お子さんが「できない」と感じてしまわないように、遊びや興味を取り入れた方法でトレーニングしていきます。ここでは、子ども向けソーシャルスキルトレーニングの流れや工夫、幼児へのアプローチ、効果を高めるポイントについて解説します。
1. セッションの流れと構成
ソーシャルスキルトレーニングは「言語的教示→モデリング→行動リハーサル→フィードバック→定着化」という流れで進行します。各ステップについては以下のとおりです。
1.言語的教示(インストラクション):
子どもたちに「今回はどんなスキルを練習するのか」「なぜそれが大切なのか」を、わかりやすい言葉で伝える段階です。スキルの内容だけでなく、その背景にある社会的ルールや根拠も一緒に説明します。
2.モデリング:
先生や他の子どもたち、あるいはテレビやアニメのキャラクターなどが模範を示し「見て学ぶ」ステップです。実際の行動を見ることで、スキルの具体的なイメージを持つことができるでしょう。
3.行動リハーサル:
子ども自身が実際にスキルを試してみる段階で、ロールプレイやゲーム、ワークシートを用いることもあります。言葉で繰り返す「言語リハーサル」も有効な方法です。何度も繰り返し、スキルを定着させます。
4.フィードバック:
リハーサル後に、先生が子どもたちに対して「うまくできたこと」「さらに良くなるポイント」などを具体的に伝えます。「できた」ことを強調しながら伝えることで、子どもたちの意欲や自己肯定感が高まります。
5.定着化:
学んだスキルを日常生活で使えるように促す段階です。「どんな場面で使えそうか?」を一緒に考えたり、家庭で実践し記録してもらったりします。日常の経験と結びつけることで自信につながり、成功体験を増やしていきます。
2. 子ども向けソーシャルスキルトレーニング(SST)の工夫
子どもたちの集中力は短く、年齢や発達段階によっても個人差があります。効果的にトレーニングするためには、まず全体でのあいさつやアイスブレイクを取り入れ、緊張をほぐしてから始めると良いでしょう。
言葉で表現する能力が発達途中のお子さんは、目で見た情報の方が理解しやすい「視覚優位」のタイプも少なくありません。そのため教材には、ホワイトボードや絵カード(PECSなど)を使用した視覚支援が有効です。
また、引っ込み思案なお子さんは、表面的に問題が見えづらいケースがあるため、注意が必要です。 感情や言葉の表出が少ない場合、本人と周囲の理解が一致していないケースも少なくありません。こうしたお子さんは問題が見逃されやすく、学校や社会との不適合に結びつきやすいことも。安心できる雰囲気の中で自分のペースで表現できるようサポートし、心の中に溜め込みがちな感情を少しずつ外に出せるよう支援していきます。
3. 幼児へのアプローチ
幼児の場合は、自然な遊びを通して社会的スキルを学ぶ方法が有効です。
例えば「ごっこ遊び」は代表的なロールプレイの一種であり、あいさつや順番、感謝の気持ちなどを自然に体験できます。 「おままごと」では「ハンバーグをください」という依頼に対し、おもちゃなどをハンバーグに見立てる・器に入れる・依頼者に渡すなど、依頼・応答の一連のやり取りを楽しみながら練習できます。このように、実際の生活に近い状況を再現することで、自然と対人スキルを身につけていく方法です。
また、相手の感情を読み取るのが難しい段階のお子さんには、写真やイラストを使ったクイズがおすすめです。笑っている人の写真を見せて「この人はどんな顔?」「どんな気持ち?」と問いかけ、自分や他人の気持ちを考える機会をつくります。語彙が少ないうちは、「たのしい」「えんえん」などの言葉、身振りや擬音など本人なりの表現で良いでしょう。繰り返すことで、相手の感情を読み取る能力や自分の考えを言語化する能力が養われます。さらに「なぜそう感じたか?」といった理由など、質問の幅を広げコミュニケーションを深めていきます。
4. 成果を高めるポイント
ソーシャルスキルトレーニングの効果を高めるには、フィードバックの仕方が非常に大切です。
「良かったよ」「頑張ったね」など漠然とした言葉では、何が良かったのか子どもたちには伝わりません。「相手の目を見てお話しできたのが良かったよ」「名前を呼ばれて大きな声でお返事できたね」など、良かった行動を具体的に伝えることで、子どもたちは自分の良い行動を正しく理解できます。
改善点を伝えるときも「ここが悪い」「だめ」ではなく「お話ししている先生の方を見るよ」「○○くんの順番は△番目だから、座って待とうね」など前向きな言い回しを心がけましょう。
また、家庭でもソーシャルスキルトレーニングの成果を生かせるよう「次までに先生にありがとうと言ってみる」「朝のあいさつをしてみる」など、小さな課題を出し、実際の生活場面で取り組んでもらうのが効果的です。その結果を振り返ることで、子どもたちは自信をつけ、さらに意欲を高めることができます。
ソーシャルスキルトレーニング(SST)を受けるメリットと注意点
対人スキルの向上を目指すソーシャルスキルトレーニングには、メリットもありますが、注意すべき点もあります。これは本人だけでなく家族も関係しており、周囲の理解が欠かせません。それぞれ詳しく解説していきます。
1. グループ形式・個別形式それぞれの利点
ソーシャルスキルトレーニングには、グループ形式と個別形式の実施方法があります。
グループ形式は、他の参加者との関わりを通して実践的に学ぶことができ、対人スキルの習得や共感力の向上が期待できます。一方で個別形式は、本人の特性や課題に応じた柔軟な対応が可能であるため、より本人に合った丁寧な指導が特徴です。
グループは社会性の強化、個別は個人の課題の克服に注力しており、目的や特性に応じて形式を選択しましょう。
トレーニングは、一般的に週1〜2回の頻度で実施され、状況に応じて形式を組み合わせることも可能です。
2. 継続的な練習の必要性
ソーシャルスキルトレーニングで学んだスキルを身につけるためには、継続的な練習が欠かせません。
一度のトレーニングですぐに成果が出るものではなく、日常生活の中で繰り返し実践することで徐々にスキルが定着していきます。
例えば「順番を待つ」「あいさつをする」など基本的な行動を繰り返しトレーニングします。トレーニングでできるようになったら、日常生活の中でも自然とできるようになるまで、何度も繰り返すことが大切です。
また、定期的な振り返りや課題を見直すことで理解を深め、次のステップへと進む意欲にもつながります。
3. モチベーションと目標設定
ソーシャルスキルトレーニングを続けるうえで大切なのが、目標設定とモチベーションの維持です。目標設定のポイントは、スモールステップで進めること。長期的なゴールだけでなく、達成可能な短期目標を細かく設定することで、達成感が生まれ継続への意欲につながります。
例えば「自分からあいさつをする」が最終目標であっても、まずは「相手の目を見る」「返事をする」「あいさつを返す」といったステップに分けて進めると、無理なく成長を感じられます。
また、チェックリストや記録表を活用すると目標への進み具合が目で見てわかるため、達成感が得られやすくなるでしょう。
4. 想定されるリスク・デメリット
ソーシャルスキルトレーニングにはメリットだけでなく、注意すべき点もあります
まず、すべての人に効果があるわけではなく、本人の特性に合わない方法で無理に進めると、かえってストレスになる場合があります。
また「ソーシャルスキルトレーニングを続ければ、必ずできるようになる」といった過度な期待も危険です。特に保護者様の期待が高すぎると、お子さんは強いプレッシャーを感じてしまいます。結果が伴わなかったときは自信を失い、何に対しても後ろ向きになっていしまう可能性も。
ソーシャルスキルトレーニングは万能ではないことを理解し、無理のない目標設定と柔軟な対応を心がけることが大切です。本人の状態や反応を見ながら、必要に応じて専門家と連携し、ニーズに応じてプログラムを調整しましょう。
Q&Aで理解を深める:よくある疑問と実践例
ここでは、ソーシャルスキルトレーニングに関する疑問や、日常で生かせる具体的な実践方法、通所先の探し方などをQ&A形式で紹介します。
1. どのくらいの期間で効果が出る?
ソーシャルスキルトレーニングの効果を感じるまでには、一般的に数ヶ月から半年程度かかるとされています。ただし、効果の出方には個人差が大きく、すぐに結果が出るものではありません。
トレーニングは繰り返すことで徐々に身につくものです。本人の特性や課題の内容、トレーニングへの取り組み方によっても習得のスピードは違うため、焦らず継続することが大切です。
周囲のサポートとともに長期的に取り組むことで、より実践的なスキルの定着が期待できます。
2. 自宅でできる練習方法は?
ソーシャルスキルトレーニングは、自宅でもコミュニケーションを通して実践できます。
例えば、ボードゲームやトランプを通して「順番を守る」「ルールを理解する」といった社会性を身につけることができます。夕食時に今日の出来事を家族で話すこともトレーニングの一つです。「順序立てて話す」「相手の気持ちを考えながら伝える」をコミュニケーションを通して学んでいきます。
特別なトレーニングも大切ですが、日々のコミュニケーションに少し意識を加えることで、経験を積むことができます。
練習方法や取り組み方に迷ったら、関わりのある専門職に相談してみましょう。
3. 他の療法との併用は可能か?
ソーシャルスキルトレーニングは、他の療法と併用して取り組むことが可能です。特に、認知行動療法(CBT)や感情コントロールトレーニングと組み合わせることで、より具体的なスキルを身につけることが期待できます。
認知行動療法は、自分の考え方や感じ方のクセを理解し、行動に生かすためのトレーニングです。ソーシャルスキルトレーニングと連携することで、対処が難しい状況に対する良い行動を身につけられます。
また、グループや家族と一緒に取り組むことで、社会的な練習の場が広がり、学んだことを日常的に活用しやすくなるでしょう。
4. 費用面や通所先の探し方
ソーシャルスキルトレーニングを受ける費用は実施機関によって異なります。
民間の医療・教育機関では、1回5,000円〜10,000円、月謝制で2万〜3.5万円程度が一般的です。
一方、公的機関や福祉サービスを活用すれば、無料または低料金で受けられる場合もあります。地域の発達支援センターや若者サポートステーション、児童発達支援・放課後等デイサービスなどが公的機関にあたります。
施設選びで大切なことは、実際に見学したり体験したりして、プログラム内容や雰囲気を確認することです。複数の施設を比較検討し、自分に合ったプログラムが受けられる施設を探しましょう。
まとめ:ソーシャルスキルトレーニングでできること
ソーシャルスキルトレーニングとは、人との関わりになんらかの困り事がある方に対して、コミュニケーション能力を向上させ、社会参加を促すトレーニングです。ソーシャルスキルトレーニングを用いることで、日常生活での基本的な人との関わり方や、ストレス対処スキルが身につき、自信や自己肯定感の向上に役立ちます。
ソーシャルスキルトレーニングの効果を高めるためには、本人の特性や発達段階に合わせたプログラム内容を検討しましょう。前向きなフィードバックを通して、本人のモチベーションを保ち、持続的に訓練を続けることが大切です。
コミュニケーションスキルの向上は、人間関係や社会生活の幅を広げます。コミュニケーションで困る場面を減らすために、ソーシャルスキルトレーニングを取り入れてみましょう。

看護師として総合病院で10年間勤務。循環器科・救急科にて急性期看護を学びました。結婚を機にクリニックへ転職。現在はWebライターとしても活動しています。子どもの発達に不安を抱き、児童発達支援士を取得。障害のある方の不安に寄り添った記事を執筆します。


