傷病手当金がもらえないケースとは?不支給になる条件と退職後の注意点

デコボコベース株式会社 最高品質責任者(CQO)
東京大学大学院 教育学研究科
博士課程 単位取得満期退学
通信制高校教諭、障害児の学習支援教室での教材作成・個別指導 講師を経て、現在は療育プログラムの開発、保護者や支援者向けの研修を実施
傷病手当金、申請したいけど…自分の場合はもらえないのかな?

休職が長引いて退職が頭をよぎる。あるいは、もう退職したけれど、この先の生活費が心配。そんな状況で傷病手当金を調べていると、「条件を満たさないともらえない」という話を目にして不安になるかもしれません。
たしかに受け取れないケースはあります。一方で、誤解から受給をあきらめている人も少なくないようです。
この記事では、もらえないケースの全体像と、自分が当てはまるかどうかの確認の仕方、そして受け取れなかったときの備えまでを整理します。
▼この記事の3つのポイント
- 傷病手当金がもらえない主なケースは「受給条件の不足」「給与・他の給付との重複」「健康保険の加入状況」「退職後の落とし穴」の4つに整理できます
- うつ病や適応障害などの精神疾患も、業務外の病気として医師が労務不能と認めれば支給の対象になります
- もし受け取れなくても、障害年金・失業保険の受給期間延長・生活保護といった別の支えがあり、相談できる窓口もあります
傷病手当金とは?まず受け取れる条件を確認しよう

傷病手当金がもらえないケースを理解するには、まず「どんなときに受け取れる制度なのか」を知っておくと整理しやすくなります。
傷病手当金は、業務外の病気やケガで働けなくなり、給与が受けられないときに生活を支える、健康保険の給付です。ここでは制度の目的と、在職中に支給される条件を確認します。
傷病手当金の目的と対象になる人
傷病手当金は、健康保険法にもとづいて被保険者に支給される手当です。
会社の健康保険(協会けんぽや健康保険組合)に加入している人が、業務外の病気やケガで働けず、給与を受けられない場合に、その間の生活を支える目的で設けられています。
対象になるのは被保険者本人で、その家族(被扶養者)は対象になりません。うつ病や適応障害などの精神疾患も、業務外であれば手当の対象に含まれます。
支給される条件
在職中に傷病手当金を受け取るには、次の4つの条件をすべて満たす必要があります。
1. 業務外の病気やケガの療養であること
2. その療養のため仕事に就けない状態(労務不能)であること
3. 連続する3日間を含めて4日以上仕事を休んでいること
4. 休んだ期間について給与の支払いがないこと
なお、「健康保険に1年以上加入していること」は、在職中の支給条件ではありません。これは退職後も受け取り続けるための要件であり、記事の後半で詳しく取り上げます。
傷病手当金がもらえない主なケース

ここからが本題です。先ほど解説した条件を1つでも欠くと、傷病手当金は支給されません。代表的なケースを順番に見ていきます。自分の状況を当てはめながら読み進めると、どこに注意すればよいかが見えてきます。
業務中・通勤中の病気やケガの場合
傷病手当金の対象は、あくまで業務外の病気やケガです。
そのため、業務中や通勤途中に起きた病気やケガは、労災保険(休業補償給付)の対象となり、傷病手当金は支給されません。
労災保険は、平均賃金の8割が補償されるなど、傷病手当金よりも手厚い内容になっています。仕事が原因かどうかの判断が難しいときは、会社の担当者や労働基準監督署に確認するという方法があります。
参考:労災保険とは|厚生労働省
連続する3日間の待期期間が成立していない場合
傷病手当金は、連続して3日間仕事を休む「待期期間」を満たすと、4日目以降の休業日から支給が始まります。
ここで注意したいのが、3日間が途切れると条件を満たせない点です。たとえば月曜と火曜を休み、水曜に出勤して、木曜と金曜にまた休んだ場合、5日のうち4日休んでいても、連続3日が含まれないため待期期間は成立しません。
一方、月曜から水曜まで続けて休めば待期が完成し、木曜以降が支給対象になります。精神面の不調があると、「迷惑をかけたくない」という思いから無理に出勤し、待期が途切れてしまうこともあるようです。
休んでいる間に給与が支払われている場合
休業中に会社から給与が支払われている場合は、原則として傷病手当金は支給されません。
生活費を補う制度であるため、給与が出ている間は対象外と考えられるからです。ただし、給与の額が傷病手当金の額を下回るときは、その差額が支給されることがあります。
気をつけたいのは有給休暇の扱いです。有給を取った日は給与が支払われるため、傷病手当金の対象にならず、待期期間にも数えられません。
なお、賞与(ボーナス)は報酬とはみなされないため、待期期間中に支給されても受給には影響しないとされています。
他の公的給付と重複している場合
同じ病気やケガに対して、目的が重なる公的な給付を二重に受け取ることはできません。
重複できないものには、労災保険の休業補償給付、障害厚生年金・障害基礎年金、出産手当金、老齢退職年金などがあります。
ただし、相手の給付額が傷病手当金より低い場合には、その差額が傷病手当金として支給されるケースもあります。なお、障害年金は支給の目的が異なるため同時に受け取れる場合もあるため確認しておきましょう。
支給期間(通算1年6か月)が終了している場合
傷病手当金には支給期間の上限があります。同じ病気やケガについて、支給を開始した日から通算して1年6か月までです。
2022年1月の法改正で、暦のうえで連続する1年6か月から「通算」へと変わり、途中で復職した期間があっても、休んだ日を足して1年6か月まで受け取れるようになりました。
この期間を過ぎると支給は止まります。終了後は、働ける状態かどうかによって、失業保険か障害年金など、次に使える制度が変わってきます。
会社の健康保険に加入していない場合
傷病手当金は、会社の健康保険(社会保険)の被保険者向けの制度です。
自営業やフリーランスの人が加入する国民健康保険には、原則としてこの制度がありません。配偶者などの扶養に入って国保に加入している場合も対象外です。
一方で、パートやアルバイトであっても、勤務先の健康保険に被保険者として加入していれば対象になります。「非正規だからもらえない」という理解は誤解で、判断の軸になるのは雇用形態ではなく健康保険の加入状況です。
精神疾患で傷病手当金がもらえないことがあるのはどんなとき?
うつ病や適応障害などの精神疾患も、業務外の病気として要件を満たせば傷病手当金の対象になります。「精神疾患はもらえない」というのは誤解です。
ただし、症状が外から見えにくいぶん、もらえないケースにつながりやすい場面もあります。どんなときに不支給になりやすいのかを整理します。
業務が原因(労災)と判断された場合
うつ病や適応障害などの精神疾患でも、長時間労働やパワーハラスメントなど、仕事が原因と認められる場合は、健康保険の傷病手当金ではなく労災保険の対象になります。
この場合、同じ不調でも傷病手当金は支給されません。判断の軸になるのは病名そのものよりも、原因が業務外かどうかです。
業務が原因かどうかの見極めに迷うときは、会社の担当者や労働基準監督署に相談するという方法があります。
医師に労務不能と認めてもらえない場合
精神疾患は外見から症状が分かりにくいため、診断書に「労務不能」とはっきり記されていないと、支給が認められないことがあります。
診察のときに、睡眠がとれない、集中が続かない、人と関わるのがつらいといった具体的な症状と、それが仕事にどう影響しているのかが医師に伝わっていないと、労務不能と判断されにくくなります。
「がんばれば行けるかもしれない」と控えめに話してしまうと、実際の状態が伝わらないことも。自分の状況をそのまま言葉にしておくことが、認定の助けになります。
出典:厚生労働省「こころの耳」
通院の中断などで証明が出せない場合
通院を自己判断でやめてしまうと、その期間は医師が病状の経過を確認できず、証明を出せないために不支給になることがあります。
また、調子の良い日の外出やSNSの更新が、「働ける状態」と受け取られてしまう場合もあるようです。これは行動を監視されているという話ではなく、あくまで労務不能を客観的に確かめる仕組み上の注意点です。
療養に専念しながら通院を続け、経過を医師に診てもらうことが、結果として証明のしやすさにつながります。
あわせて読みたい ▼ 適応障害での休職|診断書のもらい方や会社への伝え方
退職・転職のときに傷病手当金がもらえなくなる落とし穴

退職後も傷病手当金を受け取りたい場合、在職中とは別の「継続給付」というルールが適用されます。
条件が変わるため、タイミングを少し間違えただけで受給資格を失う人が少なくありません。退職・転職を考えている人がつまずきやすい点を整理します。
退職日の前日までに被保険者期間が継続1年未満の場合
退職後も継続して傷病手当金を受け取るには、退職日(資格喪失日の前日)までに、健康保険の被保険者期間が継続して1年以上あることが必要です。
これは退職後の継続給付に固有の要件で、在職中の受給には求められません。会社や保険者が変わっていても、1日も空けずに連続して加入していれば、期間を通算できます。
ただし、国民健康保険、任意継続、共済組合の加入期間は含まれません。途中で1日でも加入の空白があると通算されず、もらえないケースになります。転職して間もない時期の退職は、この1年に届きにくいため注意が必要です。
退職日に出勤してしまった場合
退職後の継続給付では、退職日も労務不能で仕事を休んでいることが条件になります。
ここで見落とされがちなのが、退職日の出勤です。最終日に挨拶のためなど、短時間でも出勤して働いてしまうと、「資格喪失時に受給している、または受けられる状態」という要件を満たせなくなり、退職日の翌日以降は支給されません。
退職日をいつにするかは、医師とも相談しながら、労務不能の状態が続いている形で迎えるという考え方が、継続給付を受けるうえでは大切になります。
退職日に働ける状態と診断された場合
退職のきっかけが病気やケガであっても、退職前に主治医から「働ける状態」と診断されると、労務不能の要件を満たさなくなります。
たとえば慢性的な不調で在職中に受給していた人でも、退職直前に「労務可能」と判断されれば、その先の継続給付は受けられません。退職後も受け取りたい場合は、退職時点の診断書が「労務不能(就労不可)」と記されていることが重要です。
診断は在職中のうちに受けておくと、いつから働けない状態だったかが明確になり、手続きが進めやすくなります。
退職後・転職後に再就職したり新しい傷病を患った場合
継続給付の対象になるのは、在職中から続く同じ病気やケガに限られます。
退職後にいったん働ける状態になり、短時間でも就労した場合は、支給期間が残っていても、その後に再び休んで再受給することはできません。また、療養中に生じた別の病気は、別の傷病として扱われます。たとえば、ケガで受給していた期間に、長い療養生活のストレスからうつ病を発症しても、最初に申請した傷病とは異なるため、その分の受給は認められません。
転職直後に休職する場合は、被保険者期間が新たに数え直され、継続1年に届かないこともある点に注意が必要です。
任意継続被保険者の期間中に発症した場合
任意継続被保険者制度は、退職後も以前の健康保険を続けられる仕組みです。
扶養家族がいる場合などにメリットがあります。ただし、傷病手当金の対象になるのは在職期間中の病気やケガに限られるため、任意継続の期間に新しく発症した病気やケガは、もらえないケースに当たります。
在職中から続く傷病で継続給付を受けているケースとは扱いが異なるので、区別して理解しておくと混乱を防げます。
もし傷病手当金がもらえなくても使える制度・相談先

傷病手当金を受け取れない、あるいは期間が終わってしまった場合でも、生活を支える制度はほかにもあります。
ここでは、保険商品ではなく公的な制度と相談先を、今の状態別に整理します。自分がどの段階にいるかをイメージしながら読んでみてください。
働けない状態が続くとき:障害年金
障害年金は、病気やケガによって障害が生じ、働くことが難しくなった場合に受け取れる公的年金です。
傷病手当金とは支給の目的が異なるため、両方を同時に受け取れる場合があります(金額が調整されることはあります)。うつ病などの精神疾患も対象になり得ます。受給にあたっては、医師の診断書や障害認定日が重要な要素になります。
傷病手当金の支給期間が終わったあとも生活を支える収入源として、選択肢に入れておくと安心です。
参考:障害年金|日本年金機構
あわせて読みたい ▼ 精神疾患で障害年金はもらえる?受給条件や基礎知識を解説
回復して働ける状態のとき:失業保険と受給期間の延長
失業保険(雇用保険の基本手当)は、働ける状態にあり、再就職を目指している人が対象です。
そのため、傷病手当金と同時に受け取ることはできません。すぐには働けない時期には、ハローワークで受給期間の延長手続きをしておくと、回復してから失業保険を受け取れるようになります。
傷病手当金を受けている間に延長を申請しておけば、制度の切れ目で困りにくくなります。退職理由や年齢などによって、受け取れる日数が変わる点も知っておくと役立ちます。
生活の維持が難しいとき:生活保護とその他の窓口
収入や資産が国の基準を下回り、家族などからの支援も受けられない場合には、生活保護という最後のセーフティーネットがあります。
申請窓口は、お住まいの自治体の福祉事務所です。傷病手当金は収入の一つとみなされるため、基準を下回るときには、不足分を補う形で生活保護を併せて受けられる場合があります。
支給額は地域や家族構成によって変わるので、詳しくは自治体に問い合わせてみてください。一人で抱え込まず、まず窓口に相談するところから始められます。
参考:生活保護制度|厚生労働省
制度が複雑で判断に迷うときの相談先
ここまで読んで、自分のケースが当てはまるか判断が難しいと感じた人もいるかもしれません。制度の可否については、加入している協会けんぽや健康保険組合の窓口で確認できます。
申請手続きのサポートは社会保険労務士が、退職後の働き方の相談はハローワークの専門援助部門や障害者就業・生活支援センターが対応しています。そして、回復したあとの仕事については、就労支援サービスに自分のペースで相談するという方法も。
デコボコエージェントのようなマッチング型のサービスなら、急かされることなく、自分に合う働き方を探すことも可能です。
あわせて読みたい ▼ 【障害者向け】失業保険はすぐもらえるって本当?手当を受け取る条件
傷病手当金がもらえないケースに関するよくある質問

ここでは、傷病手当金がもらえないケースに関する、よくある疑問にお答えします。
Q. パートやアルバイトでも傷病手当金はもらえますか?
A. 勤務先の健康保険(社会保険)の被保険者であれば、雇用形態に関わらず対象になります。
勤務時間や日数が加入の要件を満たさず、国民健康保険や扶養に入っている場合は対象外です。自分がどの保険に加入しているかを確認しておくと、判断しやすくなります。
Q. うつ病やパワハラが原因でも傷病手当金はもらえますか?
A. 業務外の原因で医師が労務不能と認めれば対象になりますが、業務が原因と認められる場合は労災の対象になることがあります。
判断の軸になるのは病名ではなく、業務外かどうかと、労務不能の証明があるかどうかです。仕事が原因かどうかの見極めに迷うときは、会社や労働基準監督署に相談するという方法があります。
Q. 「傷病手当金はもらわないほうがいい」と聞きましたが本当ですか?
A. 傷病手当金は健康保険にもとづく正当な権利で、受給が転職や再就職で不利になる仕組みはありません。
療養に専念するための制度なので、条件を満たすなら活用できます。ただし、回復後に同じ傷病で受給を続ける場面では、就労できるかどうかの判断に注意が必要になります。
Q. 申請が遅れるともらえなくなりますか?
A. 申請には時効があり、働けなかった日ごとに、その翌日から2年で権利が消えます。
まとめて申請しようとすると時効が近づくことがあるため、1か月単位でこまめに申請していくと、遅れを防ぎやすくなります。
Q. 不支給の通知が届いたら、もう受け取れないのですか?
A. 書類の不備など事務的な理由であれば、訂正して再申請することで認められる場合があります。
通知書には不支給の理由が書かれています。内容を確認し、判断に迷うときは、保険者や社会保険労務士、公的な窓口に相談してみてください。
支援金を活用しながらゆっくり療養しよう

傷病手当金がもらえないケースは、「受給条件の不足」「給与や他の給付との重複」「健康保険の加入状況」「退職後の落とし穴」の4つに整理できます。
とくに退職や転職のタイミングでは、被保険者期間や退職日の過ごし方で資格を失いやすいため、早めの確認が役立ちます。うつ病や適応障害などの精神疾患も、業務外で医師が労務不能と認めれば対象になります。「精神疾患だからもらえない」というのは誤解です。
そして、もし受け取れなくても、障害年金や失業保険の受給期間延長、生活保護といった別の支えがあります。判断に迷うときは、公的な窓口や就労支援に相談しながら、自分に合う次の一歩を探していけます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の治療法や診断を推奨するものではありません。症状にお悩みの方は、必ず医師などの専門機関にご相談ください。

看護師として総合病院で10年間勤務。循環器科・救急科にて急性期看護を学びました。結婚を機にクリニックへ転職。現在はWebライターとしても活動しています。子どもの発達に不安を抱き、児童発達支援士を取得。障害のある方の不安に寄り添った記事を執筆します。


