作成日:
2025年5月10日
更新日:
2025年10月17日

傷病手当金がもらえないケースはある?退職後に支援金を受け取るには

[監修者]北川 庄治

デコボコベース株式会社 最高品質責任者(CQO)

東京大学大学院 教育学研究科
博士課程 単位取得満期退学

通信制高校教諭、障害児の学習支援教室での教材作成・個別指導 講師を経て、現在は療育プログラムの開発、保護者や支援者向けの研修を実施

▼この記事の3つのポイント

  • 傷病手当金は、病気やケガで働けなくなったときの生活を支える大切な制度ですが、条件によっては受給できないケースもあります
  • 退職後でも、条件を満たしていれば傷病手当金を継続して受け取ることが可能です
  • 傷病手当金がもらえない場合でも、障害年金・失業保険・生活保護など他の制度で支援を受けられる可能性があります

傷病手当金について知りたい…!

「休職期間が長くなって、退職せざるを得なくなった」「退職したものの、どうやって暮らしていこう…」そんな悩みを抱える方は少なくありません。予期せぬ病気やケガが原因で働けなくなれば、収入がなくなり、生活に不安を覚えるのは当然です。

そういった方々の生活を支える制度が「傷病手当金」です。傷病手当金を受け取ることで、日常生活におけるお金の心配が軽減され、治療に専念できます。結果的に、早期の社会復帰を目指せるかもしれません。

この記事では、傷病手当がもらえないケースや、退職後に支援金を受け取る方法を解説します。

そもそも、傷病手当金とは?基本情報を解説

出典:photo AC

病気やケガにより働けない状態では、収入がなく生活に不安が生じます。働けない場合の生活の補償として、会社から案内がある場合もありますが、ご自身で制度について理解しておくことは大切です。条件や支給期間、支給金額についても知っておきましょう。

傷病手当金の定義や概要

傷病手当金とは、健康保険法第99条に定められている労働者のための制度です。健康保険に加入している人が、病気やけがで働くことが難しくなった場合に受け取ることができます。収入を得ることが難しい状態になってしまった方の生活を支えることが目的です。

傷病手当金は「業務外の理由で病気やケガをした」場合に、「就労不能」と判断されると受け取ることができます。病気のなかには、うつ病や適応障害など精神疾患も含まれます。定められた期間内は受給でき、回復までの日常生活の支えとなるものです。

参考:傷病手当金について|厚生労働省

支給される条件

傷病手当金が支給される条件は以下のとおりです。

  • 業務外の病気やケガであること
  • 在職中から働けない状態ではなかったこと
  • 支給開始の前に「待機期間」として、連続する3日間の欠勤があること
  • 給与の支払いがないこと
  • 被保険者期間が1年以上あること

これらの条件をすべて満たす場合に傷病手当金が適用され、支給を受けることができます。

支給期間と金額

傷病手当金の支給期間は、一番初めに支給された日から計算し、通算1年6カ月が上限です。この期間の間に症状が改善し「就労可能」と判断された場合、条件から外れてしまいます。休職中であれば復職、退職後であれば失業保険への切り替えが必要です。

支給が打ち切られた後に病気やケガが再発し、「就労不能」と診断された場合には、再度傷病手当金を受け取ることができます。ただし、同じ傷病で傷病手当が受け取れる上限は、通算して1年6カ月です。例えば在職時に1年間受け取っていた場合には、退職後の支給期間は6カ月になります。

支給金額は以下の計算方法で算出されます。

支給金額=標準報酬月額÷月日数(30日)×2/3

月収の約2/3が受給額になると考えましょう。

参考:傷病手当金について|厚生労働省

傷病手当金がもらえないケースとは

出典:photo AC

大きなケガや継続した治療が必要な病気。これらは突然に発症するものです。とくに、精神面の不調は治療の見通しが立ちにくく、ずっと傷病手当金を受け取れるのか不安になるでしょう。条件から外れてしまった場合は、もらえないケースになることも…。もらえないケースがどういったものかを解説していきます。

業務上の傷病の場合

傷病手当金が支給される条件は、業務外の病気やケガに対してです。そのため、通勤途中や業務中に発生した病気やケガは労災保険(労働者災害補償保険)の対象となり、傷病手当金は支給されません。

労災保険は、労働者が通勤中や業務中に病気やケガを負った場合に補償を行う制度です。業務が原因で生じた病気やケガであるため、支給額は平均賃金の80%と、傷病手当金より高く設定されています。ほかにも医療費が全額支給されたり、後遺症が残った場合の補償があったりするため、傷病手当よりも手厚いサポートが受けられます。

ただ、うつ病などの精神疾患は、業務との因果関係が判断しにくいものです。そのため、労災として認定されないケースもあるようです。

参考:労災保険とは|厚生労働省

待期期間が満たされていない場合

傷病手当金は、3日間連続して仕事を休む「待機期間」をクリアすると、4日目以降の休業日から支給が始まります。ただし、この3日間が途中で途切れてしまうと条件を満たせません。

例えば、月曜と火曜を休んだ後、水曜に出勤し、木曜と金曜に再び休む場合を考えます。このケースでは、5日間のうち4日間仕事を休んでいるように見えますが、連続した3日間が含まれていないため、待機期間の条件をクリアできません。

一方、月曜から水曜まで連続で休んだ場合はどうでしょう。この場合、3日間続けて休業しているので待機期間が成立します。その結果、木曜以降の休業日については傷病手当金の支給対象となります。

精神面の病気の場合は、「周りに迷惑がかかる」「出勤しなければ」という焦りから出勤し、早退や遅刻することがあるかもしれません。待機期間が完成しないと傷病手当金を受け取れないため、まずは療養を優先しましょう。

参考:傷病手当金|全国健康保険協会

給与が支払われている場合

休業中に会社から給与が支払われている場合は、原則として傷病手当金の支給はされません。しかし、出勤日数が少なく、給与の金額が減り、傷病手当金の金額を下回る場合には、差額が支給されるケースがあります。

このときに注意したいのが、欠勤した日が有給休暇となっているかどうかです。有給となる場合には給与の支払いが発生します。そのため、待機期間とはカウントされず、受給条件を満たしません。

また、副業で得た報酬も収入と計算されるため、少額であっても注意が必要です。万が一、副業を隠して傷病手当金を受け取った場合には、支給の停止や支給額の返金、場合によっては刑事罰を課される可能性があります。

ただし、ボーナスは報酬としてみなされません。待機期間中にボーナスが支給された場合であっても、待機期間が完成していれば傷病手当を受けられます。

他の給付金と重複している場合

同一の病気やケガに対して、他の給付金と二重で受け取ることはできません。公的給付の重複を防ぐために、目的が同じ手当は利用できないよう決められています。

重複できない給付金制度は以下のとおりです。

  • 労災保険の休業補償給付
  • 障害厚生年金・障害基礎年金
  • 失業保険
  • 出産手当金
  • 生活保護

ただし、他の給付金の手当の額が傷病手当金よりも低い場合、その差額が傷病手当金として支給されるケースがあります。

参考:傷病手当金について|全国健康保険協会

支給期間が終了している場合

傷病手当金の支給は、支給開始日から通算して1年6か月までです。この期間を超えると、支給が停止されます。傷病手当の支給が終了したら、「就労可能」かどうかで次に利用できる制度が異なります。

働ける状態まで回復しているのであれば、失業保険の受給に切り替えましょう。失業保険は、就職の意思と能力があり、求職活動をしている方が受給できる制度です。

病気やケガの回復が思うようにいかず、働けない状態であれば、障害年金へ切り替えるとよいでしょう。障害年金は障害などが理由で働くことが難しい場合に受給できるため、継続的な支援が受けられます。

参考:障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額|日本年金機構

任意継続被保険者の場合

任意継続被保険者制度とは、退職後も引き続きこれまで加入していた健康保険の被保険者になることができる制度です。傷病手当の受給開始後に退職した場合でも、引き続き健康保険を利用することができます。とくに扶養家族がいる方にとっては、家族の保険が含まれるためメリットが大きい制度でしょう。

しかし、傷病手当金の対象となるのは、在職期間中の病気やケガだけです。したがって、任意継続被保険者制度を利用している期間に発生した病気やケガは、傷病手当金がもらえないケースといえます。

参考:任意継続被保険者制度について|厚生労働省保険局

退職後の傷病手当金はもらえる?流れは?

出典:photo AC

病気やケガがいつから発生しているのか、働くことができない状態であるのかなど、条件を満たす場合には退職後にも傷病手当金を受け取ることができます。退職後に傷病手当金を受け取る流れを紹介します。

退職後も傷病手当金を受給できる条件

退職後も傷病手当金を受給するための条件は以下のとおりです。

  • 業務外の病気やケガのため働くことができない。
  • 医師から「就労不可」の診断を受けている。
  • 連続する3日間の待期期間を満たしている。
  • 会社から給与が支払われていない、または給与が傷病手当金より少ない。

これらすべての条件を満たすことで傷病手当金を受給することができます。

とくに、医師の診断は在職中にもらっておきましょう。申請には医師の診断書が必要であり、いつから「就労不可」の状態であるかが重要です。在職中に「就労不能」と診断されない場合には、傷病手当金がもらえないケースもあります。

参考:傷病手当金|全国健康保険協会

退職後の申請方法

傷病手当金の申請方法は以下のとおりです。

1. 書類の準備(傷病手当金支給申請書、医師の意見書、勤務先の証明書、退職日が分かる書類)
2. 健康保険組合または協会けんぽに申請
3. 審査

傷病手当金を申請する場合には、書類の準備は早めに行いましょう。医師の診断書や勤務先の証明書などは、発行までに時間がかかることがあります。申請から振込までは1~2か月程度かかるため、早めに申請しておくことで、切れ目なく収入を確保できます。

参考:傷病手当金|全国健康保険協会

退職後の支給期間と金額

傷病手当金の支給期間は上限が1年6か月と定められています。この期間は退職してからではなく、待機期間が完成し、支給開始となった日から通算で数えられます。

退職後に申請をした場合には、医師が「就労不能」と診断した期間分しか申請できません。そのため、受診後は速やかに申請を行いましょう。

支給金額は、退職前の月給の標準報酬をもとに計算されます。

一日当たりの支給額=標準報酬月額÷30日×2/3

標準報酬月額が30万円の場合は、一日当たりの支給額が6,666円となり、ひと月に19,9980円支給されます。退職後であっても、在職時の給料の約2/3の額が受け取れると考えましょう。

参考:傷病手当金|全国健康保険協会

退職後に傷病手当金がもらえないケースはある?

出典:photo AC

退職後に傷病手当金が受け取れるつもりで退職を決断しても、万が一もらえないケースに該当した場合、収入がなくなってしまいます。収入がない生活は経済的不安が募り、思うように療養できないことも…。退職後に傷病手当金がもらえないケースを理解し、支援が受けられるよう調整しておきましょう。

被保険者期間が1年未満の場合

在職中にケガや病気により傷病手当金を申請した場合は、入社年月に関わらず、受け取ることができます。しかし、病気やケガの回復が思うようにいかず、退職となった場合には注意が必要です。

傷病手当金は、資格喪失後の継続給付に条件があります。被保険者期間が1年以上あることが、退職後も継続して傷病手当金を受け取る条件です。

例えば、入職して3か月の方が、病気により傷病手当を受け取った場合、在職している間は傷病手当金が受け取れます。しかし、入職後7か月目に退職した場合には、退職後に継続して手当を受け取ることができません。

ただし、被保険者期間とは、同じ会社に1年以上継続して在職しなければいけないわけではありません。以前の職場から継続して同じ健康保険に加入している場合には、通算して計算されます。しかし、1日でも保険に加入していない期間がある場合は適応されず、もらえないケースとなってしまいます。

退職日に労務可能と判断された場合

退職を決めた原因がケガや病気であったとしても、働ける状態まで改善したと診断されると、傷病手当を受けることができなくなります。

慢性疾患で退職前に傷病手当金を受給していても、退職日を迎える直前に、主治医から「労務可能」と診断された場合には、労務不能の要件を満たさなくなってしまいます。退職後も手当を受けたい場合は、退職時点で医師の診断書が「就労不可」と記載されていることが重要です。

そのため、退職など大きな決断をするときには、自分1人で決めるのではなく、医師ともしっかり話し今後の方針を決めていきましょう。

新たな傷病の場合

退職の原因となった病気やケガとは別に、新たな傷病を患った場合には傷病手当金を受け取れないケースがあります。

例えば、ケガにより傷病手当金を受け取っていた期間に、長期間の療養生活にストレスや不安を抱え、うつ病などを発症したとします。その場合には、傷病手当を申請した傷病とは異なる病気と判断されるため、再申請をしても受給が認められません。

退職後に受給が可能なのは、在職中から続く傷病に限られています。そのため、病気やケガの状態が変わった場合は、どのような扱いになるのかをしっかり確認しましょう。

再就職した場合

病気やケガが改善してくると、少しずつ社会生活を再開させたくなります。フルタイムの正社員は難しくても、短時間のパートや在宅での事務作業ならできると考えることもあるでしょう。

しかし、短時間で少額の収入であっても働けるという事実から「就労可能」と判断されることがあります。その場合には傷病手当金が受け取れないケースがあります。

そのため、症状が回復し社会生活を再開する場合には、収入や働き方などをよく考え、慎重にすすめていくようにしましょう。

傷病手当金以外の支援制度はある?

出典:photo AC

ケガや病気で働けなくなった場合の支援制度は、傷病手当だけではありません。生活を支援するためさまざまな制度が整えられています。傷病手当金以外の支援制度を紹介します。

障害年金

障害年金は、病気やケガにより障害が生じた場合に受給できる公的年金です。国民年金・厚生年金の加入状況や障害の程度により金額が異なります。障害基礎年金は全国民が対象で、厚生年金加入者はさらに上乗せされます。医師の診断書や障害認定日が重要な要素となり、退職後の生活を支える大切な収入源です。

また、障害年金と傷病手当金は支給目的が違うため、同時に受け取ることができます。場合によっては傷病手当金の金額が調整されることがあるため、同時に受け取る場合には支給金額について確認しておきましょう。

参考:障害年金|日本年金機構

失業保険

失業保険は、雇用保険に加入していた方が退職後に、再就職を目指している期間の生活を支える制度です。過去2年間で通算12か月以上保険料を納めていたりハローワークで求職活動を行っていたりする場合に受給できます。支給日数は年齢や勤続年数、離職理由により異なります。

失業保険と傷病手当は同時に受け取ることはできません。「失業保険」は働ける状態と判断された場合に受け取れる給付金です。そのため、働くことができない状態では「傷病手当金」を受け取れるよう手続きをおこないます。

参考:雇用保険手続きのご案内|ハローワークインターネットサービス

生活保護

生活保護は、最低限の生活を維持できない場合に、国が生活費や医療費を支給する制度です。収入や資産が基準を下回ることが条件で、家族などからの支援が受けられない場合が対象です。支給金額は地域や家族構成により異なるため、詳しくは自治体に問い合わせてみましょう。申請窓口は自治体の福祉事務所です。

傷病手当金は収入の一つと判断されるため、基準を下回った場合には生活保護と同時に受け取ることができます。その場合は、不足分が生活保護の支援として支給されます。

参考:生活保護制度|厚生労働省

支援金を活用しながらゆっくり療養しよう

出典:photo AC

傷病手当金は、予期せず働くことができなくなったときに、生活の支えになる制度です。補助金を受けながらしっかりと療養していきましょう。

しかし、傷病手当金にはもらえないケースがあることは覚えておきましょう。とくに、業務上の傷病、待機期間、収入があるときは注意が必要です。在職中だけでなく、退職後も継続して受け取れるかどうかは重要なポイントです。

傷病手当金がもらえないケースであっても、ほかに支援制度があります。ご自身がどの制度を受けられるか分からない場合は、会社や役所へ相談してみましょう。制度を利用することで、ゆっくりと療養できる環境を整えられます。

[ライター]牧野 夏乃(看護師)

看護師として総合病院で10年間勤務。循環器科・救急科にて急性期看護を学びました。結婚を機にクリニックへ転職。現在はWebライターとしても活動しています。子どもの発達に不安を抱き、児童発達支援士を取得。障害のある方の不安に寄り添った記事を執筆します。

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